三井住友銀行グループとみらいワークスが共同運営するアクセラレーションプログラム「未来X(mirai cross)」を縁に繋がった、ドローン・ロボット開発スタートアップ「イームズロボティクス」と空調設備などを手がける「新日本空調」。2022年12月、新日本空調は第三者割当増資を引き受けイームズロボティクスに出資、2社の協業がスタートしました。
新日本空調の未来戦略推進担当として新規事業創出に取り組む宮下公一氏とイームズロボティクスの曽谷英司社長に、協業の「現在地とこれから」について聞きました。
新日本空調 上席執行役員未来戦略推進担当
宮下公一(みやした・こういち)
1987年、三井銀行(現三井住友銀行)入行。支店勤務の後、上場企業の再生支援や企業価値向上・資本政策に関する提案やファイナンス等の取り組みを経て、東京・大阪3拠点の法人営業部長とプライベートバンキング営業部長を務める。2018年から新日本空調で企業とのアライアンスによるソリューション力の強化や新規事業の探索に取り組んでいる。
イームズロボティクス 代表取締役社長
曽谷英司(そたに・ひでじ)
日立製作所系列のシステム会社で金融業界への営業を30年担当。2015年に新規事業としてロボット事業立ち上げ責任者となり、ドローンビジネスに参画。ロボット事業では国内外にわたる事業展開、協業推進、営業活動を行う。2019年にイームズロボティクス事業推進上級コンサルタント、2020年に取締役、2021年に現職。ERA(環境ロボティクス協会)理事、FAS(ふくしま次世代航空戦略推進協議会)副会長。
夢を追いかけられる会社への投資の魅力
宮下様:
イームズロボティクス(以下、イームズ)は、日本発のドローンメーカーとして、陸・海・空すべてのシーンで活用可能な機体を開発している点に魅力を感じました。新日本空調ではその名の通り、空調を中心とする建築設備の設計・施工を行なっています。陸・海・空対応可能なロボットなら建物点検において対応力が高いのではないかと思いました。
曽谷様:
大変ありがたいことです。
宮下様:
イームズの事業説明は要所要所がしっかりしていますよね。出資して、たとえ協業がうまくいかなかったとしても、ドローンビジネスは夢を追いかけられる。投資案件としての高い可能性を感じたというのも出資を決めた大きな要因の1つです。
曽谷様:
ドローンというと多くの方々は空を飛ぶ機体を想像されると思います。弊社は東京大学や産業技術総合研究所などとの共同研究による最先端の技術開発力を武器に、陸・海・空すべてのシーンで利用可能な機体を開発しています。UAV(無人航空機)、UGV(無人地上車両)、USV(無人水上艇)すべてを開発できるのは国内でイームズのみ。これら自律飛行・自律走行できるガジェットを用いて、クライアントが抱える問題を解決するためにどうしたらいいか提案する会社がイームズです。
大規模施設点検ロボットの可能性
宮下様:
日本国内の建設業マーケットは長い目で見ると縮小していきます。空調中心のエンジニアリングだけでなく新しい事業を考えていかなければなりません。一方で、少子高齢化による人手不足もあり、これまで人の手で行っていた仕事を極力、ロボットやデジタル技術に置き換えていく必要があります。たとえば、全長何kmもある地下の大規模なインフラ施設。人が歩いて点検しているところをロボットに置き換えることができれば省力化が図れます。
曽谷様:
そこで進めているのが、地下の施設点検をロボットに置き換えることです。UGVにLiDAR(ライダー)カメラを付けて自律走行させ、ダクトなどの設備の3次元データを取得できないかを検討しています。GPS等が使えない地下の施設点検をロボットに置き換えるには複雑なところが多く、技術的課題も山ほどありますが、そういうところにはニーズがある。ここで実現できたらさまざまなところで転用できると考えています。
宮下様:
点検だけでなく、経年に伴う変位の把握などもできれば付加価値がつけられますよね。ただ、cm単位の測定精度を確保するのは難しい。弊社の要求水準が高いのは自覚していますが、ひとつひとつ課題をつぶして解決できれば、高い付加価値を実現できるのではないかと期待しています。
曽谷様:
まさに、要求に応じてカスタマイズするのが弊社の得意とするところです。いきなり100点を叩き出すのは難しいけれど実証を行なって見えてきた課題をつぶし改良を続け、徐々に点数を積み上げて商品化したいと考えています。
株主とクライアント、2つの立場のコンフリクト
宮下様:
スタートアップに出資し協業するのは、新日本空調にとって初めてのこと。イームズの取締役会にオブザーバー参加させてもらって驚いたのがそのスピード感です。1カ月の間にどれだけ課題解決を進めたかの報告があるのですが、身をもってそのスピードを実感しています。また、協業したからこそ見えてくる業界内の状況があるのだなと感じています。新しい開発について、業界の課題について、外から見ていただけではわからなかったことを、出資したからこそ深く理解できるようになりました。
曽谷様:
「スピードが命」のようなところはもちろんありますね。スタートアップとしてまだまだ経営が盤石という状態でもないので、新日本空調様はじめ、さまざまな企業に「こんなことはドローンでできないだろうか」と要求いただきひとつひとつ課題を解決していくことが成長につながっています。
宮下様:
ここにクライアントであり株主でもあるという関係性の難しさがあるのも事実です。クライアントとしては、新日本空調の要求に最優先で取り組んでもらいたい。一方で株主の立場に立つと、さまざまな企業の要求のなかからより大きなビジネスにつながる可能性がある案件に最優先に取り組んでもらいたい。クライアントであり株主でもあるという立場になったからこそ、判断するのが悩ましい点もありますね。
曽谷様:
宮下さんは、そのあたりの悩ましい点も認識した上で、経緯を見守り要求をぶつけていただけるので本当に助かっています。ドローンにかぎらずロボット全般に言えることなのですが、日本人のロボットに対する期待はものすごく高いんです。「鉄腕アトム」のようなイメージをお持ちなのか、ロボットは人間よりできて当たり前と考えていて、100%を望まれるんです。
導入の際に、「ロボットとはいえ100%はないんですよ」ということを理解してもらわなければならない。ここが悩ましいところです。クライアントによく聞かれるのが「(ドローンは)落ちないよね?」という質問なのですが、私は「必ず落ちます。絶対に落ちませんなんていう人の言葉は信じちゃいけません」と答えています。まだまだ新しい技術ですから100%はないんです。
資金提供だけじゃない、パートナー企業ができること
宮下様:
協業しているからこそ見えてくる課題があると先ほど言いましたが、これからはその課題を解決するためのパートナー企業の発掘、パートナー企業同士の横のつながりの強化が大事になってくる気がしています。
曽谷様:
リソース不足で体力がないので、大企業の横のつながりでサポートしていただけるとありがたいですね。販路開拓だけではなく、足りない技術を補う必要もあります。そういった企業様をご紹介いただきたい。ドローンは今、「ラジコン」から「飛行機」に変わる過渡期です。航空機メーカーと協業しつつ開発中ですが、飛躍的なレベルアップが必要なため苦労しています。壁をいかにして越えるか、さまざまな視点から情報をいただけるとうれしいです。
宮下様:
パートナーとして、さまざまな企業がイームズに興味を持つようにPRに努めていきます。加えて新日本空調としても、今年度、2030年を見据えた長期ビジョンのフェーズⅡに突入し、イノベーションのための投資を積極化しています。社内にプロジェクトチームも発足しイノベーションの議論も活発化しているので、そういった追い風をイームズとの協業推進の力にしていきたいですね。
曽谷様:
イームズの15〜20年後に向けての長期ビジョンでは、ドローンの飛行数を現在の35万台から1000万台へ拡大し、高齢化や「物流の2024年問題」をロボットで解決していきたいと考えています。もちろん国内にとどまらず、グローバルな展開も加速させていきます。