受賞企業 | Blocq, Inc. |
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事業概要 | 量子コンピュータによるブロックチェーンの運用 |
当日は、普段はオンラインでしか中々顔を合わせる機会がないという、CEOを含めた5名のメンバーが三井住友銀行本店に集い、インタビューに臨んでくださいました。
写真左より長谷川様、渡邉様、杉浦様、日向様、佐藤様
―改めまして、GAPグラント賞の受賞、おめでとうございます!
まずは自己紹介として、CEO杉浦様のこれまでのキャリアについてお聞かせください。
杉浦様:
私自身は量子コンピュータの研究者として、13年間、東大・ハーバード・NTT・MIT等で研究をしてきました。トップジャーナルでの研究発表や、上皇陛下から賞をいただいたこともあります。今後も研究者としてやっていけると感じていた一方で、量子コンピュータは社会に対してギャップがあるなということも目の当たりにしていました。その上で、20年後を見据えた研究開発ではなく、実装部分を担うことで今の社会に貢献することを目指して起業をしました。
―他チームメンバーの皆さまのキャリアについてもお聞かせください。
今日は来ておりませんが、開発トップの池田は元東大助教の現理研研究員、研究トップの渡邉は名古屋大助教です。そして、プロダクトデザインの日向とエンジニアの佐藤は、10年以上ブロックチェーン業界にいるエンジニアです。インターンの長谷川は、量子物理の研究をする大学院生で、マーケティングやHP関連業務を担当しています。私杉浦と渡邉、池田、日向は元々共同研究者で、量子コンピュータとブロックチェーンのトップ開発者たちを集めたチームとなっています。
―チームの皆さまとはどのようなご縁で繋がっていかれたのでしょうか。
杉浦様:
日向とは、元々大学の物理の先輩・後輩という間柄です。私が研究室で博士課程にいたときに彼が修士で、卒業後はブロックチェーン業界にずっといるという人だったので、一番信頼できる相手ということで起業前から相談をしていました。
10年ぶりくらいに杉浦から連絡が来て相談を受けました。理論の部分はかなり出来ていたのですが、チームとしては研究者の方が殆どだったので、開発出来るメンバーがあまりいなかったんです。その点で、ガッツリ開発出来る人が必要だとの考えから、エンジニアの佐藤を紹介しました。
佐藤様:
以前日向が創業していた会社で一緒に働いていたこともあり、彼とはブロックチェーン関連で繋がっていました。長い付き合いがある中で、ここで一緒にやってみないかとBlocq, Inc.に誘われて、ブロックチェーンのことであればと参画をしました。
渡邉様:
私は杉浦が所属していた研究室の隣の建物で、院生として素粒子理論を研究していたところ、研究会で出会って一緒に論文を書いたことがきっかけで繋がりました。
長谷川様:
今現在大学院で物理を学んでいます。素粒子の方ですが、量子コンピュータを使って研究をやることになったという点に加え、元々起業したいという思いがありました。そこで、物理を使って起業している人がいるという話を聞き、インターンとして入りました。
―現在の事業内容に繋がる創業の経緯について、なぜその事業を選んだのかなど、あらためて詳しくお聞かせください。
杉浦様:
元々私が研究者を志した動機は、研究は基礎的だからこそ社会に大きな貢献が出来ると考えたからでした。そのため、量子コンピュータの発展を見て社会実装が近いと考え起業したのは自然な結論でした。
当初は、自身の専門である量子コンピュータのアプリケーション開発事業を考えていました。量子コンピュータが中々商用化されない中、量子ブロックチェーン技術が最初に商用化できるアプリケーションになるのではという考えを持っていたからです。しかしその後、事業案については未来X(mirai cross)の中で紆余曲折があり、研究者的な視点だけではなく、ユーザーを見て作り直す必要があるなという考えに行きつきました。
―未来X(mirai cross)に応募された時と今現在とでは、フォーカスポイントがかなり変化されましたよね。研修やメンタリングの中で、講師・メンターからの意見やアドバイスなど、何か外的要因もあったのでしょうか?
杉浦様:
受講した講座の中には、例えばPMFといったように、ユーザーの目線を取り入れる必要性を感じさせる講義がいくつもあったため、そこで意識を180度変えてもらったという感覚があります。特にこの領域の研究者は、とにかく量子コンピュータを使えば良い、という集団なので、あまりユーザーのことは見えていません。量子ブロックチェーンのアイデアを内輪で話をしていた時も「それってすごいよね!」と盛り上がるのですが、プロダクトとして使えるというだけで、ほぼサプライヤー側の理論からしか捉えられていなかったなと反省しました。
―社会実装化はもう少し先の話なのではと思っていましたが、以外とタイムリーなところまで来られているんですね。
杉浦様:
量子コンピュータのセキュリティに関して言えば、先にハッカーが暗号化されたデータを集めて後でゆっくり解読するという行為が可能です。なので、量子コンピュータが暗号を解けるようになる前から立ち上がってくる業界と言えます。因みにアメリカのNISTという政府の機関では既に標準化されてどんどん実装が進んでいたり、Apple社だけではなくAWS社やIBM社など、米国のメガテックでは動きが始まっています。
―取り組まれている事業について、今後どのような企業様との連携をご希望されているかについてもお聞かせください。
杉浦様:
今現在、一番注力しているのはWeb3.0業界です。特に暗号通貨の交換所や多くの暗号資産を抱える会社をターゲットとしています。なぜなら、この業界では暗号が破れる事がイコール暗号資産の流出につながるので、リスクが特に大きいからです。他にも金融業界や国防に関わる領域で、長期的目線に立ったセキュリティ対策を共創していきたいと考えています。
御行はじめ金融機関の皆さまとは、特に量子ブロックチェーン技術の実証実験を一緒にさせていただきたいと思っています。量子コンピュータは5〜6個違う計算方式がありますが、それで一つのシステムを動かすというと世界発の事例となるので、ぜひ共創させていただきたいと思っています。
また、国防については防衛を担う領域を想定しています。我々のソリューションは、Apple社などと違い、暗号自体を量子コンピュータで生成する、従来の通常のコンピュータでは生成できないかなりハイエンドのものです。そこで、ある程度コストをかけてでも一番高いセキュリティをと考えていただけるところというと、金融業界と国防の領域にニーズがあるのではと考えています。
―創業されてからのこの半年間、創業時からのテーマを変更したりなど怒涛の日々だったと思います。振り返ってのご感想や印象に残っていることなどを、ぜひ他メンバーの皆さまにも伺ってみたいです。
最初に杉浦から話を聞いたときは、事業内容もフワっとしていて、そんなんじゃダメでしょうとダメ出しをしていました。ただ、最近は事業内容も固まってきて、これだったらいけそうだなと感じられるような舵取りになってきたと思っています。
私は杉浦が起業していることをそもそも知りませんでした。なので、一緒に研究をしたいと思って連絡をした際に、実は起業しているということを聞きビックリしました。確かに社会への貢献を考えている人なのは知っていましたが、まさか大企業を辞めて起業するなんて思ってもいなかったので。
また、最終審査会の直前にプレゼン資料を一緒に直したりしましたが、その時にどういうビジョンでやっているのかみたいなことを質問し答えてもらう、ということをやる中で、だんだんと良くなっていったなということが印象に残っています。
―ご参加いただいた研修コンテンツの中で、特に印象に残ったものとその理由についてお聞かせください。
杉浦様:
メンタリングで、各分野の専門家と話す機会を頂けた事が非常に有益でした。まず、SARRの松田先生はブロックチェーンの専門家ということもあり、我々の問題意識を理解した上で事業案に対して意見を下さり、専門外の方に伝える方法についてアドバイスいただきました。その他にも、JAFCOの沼田さんや知財の森岡先生など、我々に足りていない知見を埋めて下さる専門家の方々のご意見は、非常に参考になりました。
―一連の研修を通じて学んだことは、事業に活かせそうですか?
杉浦様:
起業について何も知らない所から、今では資金調達をしてスタートアップを急成長させるつもりで事業を作り込めています。資金政策からプロダクトデザイン、ピッチの方法まで一通りのベースを学ばせて頂きました。
―最終審査会にご参加された感想をお聞かせください。
杉浦様:
私は海外出張中であったため、現地のピッチを渡邉に託してオンラインで視聴をさせていただきましたが、ハイレベルなピッチばかりで大きな刺激となりました。ブースに多くの方がいらしてくださり、その後もメールを頂き、反響の大きさを感じています。
渡邉様:
会場に足を踏み入れて、これはえらいところに来てしまったなと、とても緊張しました。一方で、皆さんのピッチを聞いていると、面白いしわかりやすいし、世の中にこんなチャンスが広がっているんだなと・・研究だけをしているとわからないことだったので、非常に刺激を受けました!
ピッチの内容は事前に杉浦と練ったので自信はあったのですが、量子物理はそうは言っても簡単ではないので、わかりやすく伝えられるかに不安がありました。ただ、質疑応答の場面等でも、想定していなかった非常に的確な質問があったりして、それらの経験はとても勉強になりましたし、今後の方針を考えていく上で凄く役立ったなと感じています。
―GAPグラント受賞のご感想と今後の用途や活用方法についてお聞かせ下さい。
杉浦様:
最終審査会では、いずれの賞もいただくことができず残念に思っていたところ、今回一番助かる賞をいただけたこともあり、受賞の第一報を聞いたときは凄く嬉しかったです。また、会社としてお金をいただくこと自体が初めてだったので、大きな自信になりました。
賞金については、量子ブロックチェーン技術の実証実験を行っていく上で必要となる、量子コンピュータのアクセス費と開発費に使わせていただく予定です。
―未来X(mirai cross)に参加されたことで、実際に次につながった事例があれば具体的にお教え下さい。
杉浦様:
これまでに、オンサイト、その後のご連絡を合わせて計10社ほどのベンチャーキャピタルからご連絡をいただいています。そしてGAPグラント受賞後には、さらにご連絡を頂きましたので、反響はとても大きかったです。また、NDAを結び実証実験をさせていただくなど、協業についても何社か繋がりができ、会社の信用度が上がったと感じています。
―未来X(mirai cross)にこれから参加を考えている方へのアドバイスはございますか?
杉浦様:
「まずは応募をしてみる」ということでしょうか。未来X(mirai cross)は自分たちのようにプレシードの企業からシリーズAまで進んでいる企業まで、募集対象に幅があります。我々も当初は講義を目的に参加させていただいたのですが、それにも関わらず最終審査まで残った上に、このような賞までいただけるとは思ってもいませんでした。それは、事業案やチームを見た上で評価して頂いたということだと捉えています。ですから、プレシードの企業やアイディアが出たばかりの方々にも、私たちが体験しているような可能性があると思っていますので、ぜひ多くの企業にチャレンジしてもらえたらと思っています。
―あらためて、Blocq, Inc.の皆さま、この度は貴重なお話をありがとうございました!
今後のご活躍と事業のご発展を、事務局一同心より祈念しております。