2024年6月5日(水)、三井住友銀行本店にて、三井住友銀行グループとみらいワークスが共同運営するアクセラレーションプログラム「未来X(mirai cross)」をご縁に繋がった「三井住友海上火災保険株式会社様」と「Star Signal Solutions株式会社様」に、共創の検討に至るまでの背景や今後の方向性などについてお伺いさせていただきました。
①自己紹介
―本日は貴重なお時間をいただき誠にありがとうございます。まずは土屋様より、自己紹介をお願いいたします。
土屋様:三井住友海上火災保険株式会社 宇宙開発チームの土屋と申します。私たちのチームは①宇宙でプレーヤーとして活躍されている方々を、保険商品やリスクマネジメントサービスを通じて支える・支援する事、②宇宙を活用するという取組みの二つを大きな柱としています。今、衛星のデータを始め、宇宙技術の地上への転用というところが大きなテーマになっており、地球と宇宙の双方の課題解決に資するような取り組みを行っています。宇宙に関わるビジネスに関して、我々が全社のハブとなって全国の営業部や本社各部・関連会社と連携し、ビジネスを創造しています。
私個人の話で言うと、私自身、昨年度宇宙開発チームが立ち上がった頃からジョインしていますが、それ以前はJAXAに3年間出向をしておりました。JAXAでは民間企業との共創事業や出資、JAXAベンチャー支援制度の運営、そして法務等に従事しました。その後、御行を含めた数多くの皆様との出会いを通じて色々と経験を重ね、それらをベースに帰任後は当社の立場で宇宙産業の拡大のために何が出来るのかといったテーマに取り組んでいます。
―何かしらずっと宇宙というテーマに関わっておられるんですか?
土屋様:はい、大学時代にインターンシップで、宇宙×保険といったテーマに憧れを持ちました。もっと遡ると、実は元々父親が凄く宇宙が大好きで、その父親に連れられて、幼い頃から望遠鏡で天体観測をしたりしているような子供だったので、漠然と宇宙への憧れを持っていました。その憧れをブーストしたのが、漫画の“宇宙兄弟”です。その漫画を読んでから、宇宙を仕事にしたい、もっと宇宙を身近に感じていつか宇宙に行けたらいいなとか、そんな夢を抱きつつ、これまで宇宙に関わる仕事を担当してきました。
―福原様の自己紹介もぜひお願いできればと思います。
福原様:私は、ビジネスデザイン部という部署で、提供価値の変革・創造に向けた企画・推進業務や、先進技術や新たな産業領域の調査・研究、国内外企業とのアライアンスに携わっています。また、兼務をしている三井住友海上キャピタル社では、スタートアップ企業に対する協業の加速を目的とした投資業務に従事しています。実は前任地が航空・旅行・宇宙という3つのマーケットを担当する企業営業部門で、土屋とは元々は同じ部署に在籍していました。
―ありがとうございます。福原様も宇宙に関わりがおありになったということで、こうした3人が出会うというのも興味深いですね。岩城様もぜひご自身のご経歴も含めた自己紹介をお願いいたします。
岩城様:まず、我々Star Signal Solutions株式会社のご紹介をさせていただきます。事業としては、人工衛星の衝突事故回避ナビサービスを開発・販売しています。現代の社会では、天気予報、カーナビ、金融取引、災害対策など、地上の様々なサービスが、宇宙の人工衛星を使ったインフラサービスの上に成り立っています。そのため、人工衛星と宇宙ゴミの衝突のような「宇宙での交通事故」の発生が、私たちの生活に大きな影響を与えるリスクがあります。そこで、私たちは「宇宙交通の安全を守ることで、地球の豊かな暮らしと宇宙活動の未来を築く」をミッションに掲げ、人工衛星の運用者さんたちが危険な接近物体を適切に避けられるようにする衝突事故回避のナビサービスを提供しています。もともとJAXAで開発された技術を活用するJAXAベンチャー企業として事業を行っており、こうした取り組みが評価されて、未来X(mirai cross)のファイナルピッチでは、三井住友海上賞とThink Globally, Act Locally Award(JTB賞)をW受賞させていただきました。
次に、私個人の経歴の中で、なぜ宇宙に?といったところでお話をすると、宇宙に興味を抱いたのは大学生の時です。当時Googleが主催していた「Google Lunar XPRIZE」というコンテストで、まさにこれから人類が旅行も含めて宇宙に進出する時代になる、という話題に触れるきっかけがありました。当時私は法学部に在籍していましたが、その中で、そういったルール作りや産業の発展に資することをやりたいという思いから、宇宙の法律に関する研究や模擬裁判などの国際的交流を行っていました。大学卒業後にJAXAに入ってからも法務や宇宙法が専門で、当初は筑波宇宙センターで、海外追跡局の契約関係や、人工衛星のデータ解析・大学との共同研究の契約関係といった業務に従事しました。その後、文部科学省に出向となり、宇宙ステーションの国際調整や広報・危機管理などに携わりました。JAXAに戻ってからは、国連の議論に関わる一方で、国内では先生方との研究会活動などを通じて研鑽を続けておりました。そのような中、日本が宇宙活動法を制定するタイミングで、内閣府で立法作業に携わる機会も得ました。
―未来X(mirai cross)の参加経緯についてお教えいただけますか。
岩城様: JAXAの新規事業促進部経由でご紹介をいただき、未来X(mirai cross)について知りました。ちょうど自社の事業計画やビジネスピッチについて、さらなるレベルアップが必要と感じていたタイミングでしたので、メンタリングや幅広い協業機会の提供など、充実したサポート内容に魅力を感じて参加を決めました。
②宇宙ゴミ問題について
―「人工衛星と宇宙ゴミの衝突のような「宇宙での交通事故」の発生が、私たちの生活に大きな影響を与えるリスクがある」との事ですが、具体的に教えていただけますか。
岩城様:「宇宙ゴミ」は、用済みになった昔の人工衛星やロケットなどの破片です。これらは宇宙空間にふわふわと浮いているのではなく、ライフル銃の10倍の速度で地球を猛スピードで周回しています。サイズは1mm以上のものが1億個以上あると言われています。一方、2022年に運用されていた人工衛星の数は約5,500機です。それが2030年までには約58,000機、つまり10倍程度に増えると予想されています。精密機械である人工衛星が宇宙ゴミと衝突するとどうなるでしょうか。人工衛星は今や我々の生活のインフラですが、衛星とデブリの衝突によって、大量のデブリが新たに発生し、その連鎖によって、例えばある日突然インターネットやATM、クレジットカードが使えなくなる、といったことが起きてしまいます。
このような事態を避けるため、人工衛星の運用を行う企業は宇宙ゴミとの衝突回避を行っています。衛星の数が1機や2機であれば人力で何とか対応できますが、10機から50機という衛星群となると、すべてに人が介在してオペレーションを行うことは難しくなるため、自動化が必要となります。弊社では、この自動化のためのソフトウェアを提供しています。
―保険会社からみた「宇宙ゴミ」の課題点はどのようなものがありますか?
土屋様:我々は人工衛星の機体自体の損害を補償する「寿命保険」を引き受けています。宇宙ゴミが人工衛星に衝突して人工衛星の機能が低下したり、使えなくなったりした場合の損失を補償するものです。ですのでこの宇宙ゴミの問題は非常に重要な問題だと考えています。また、宇宙産業のサステナブルな発展を支援する立場として、この問題には主体的に取り組む必要があると考えています。
福原様:従来我々保険会社は、事故があった際に生じた経済損失に対して保険金をお支払いする、いわゆるリスク移転の手段として損害保険の提供を主な生業としていました。現在はそれに加え、リスク軽減(低減)を目的としたリスクの可視化やリスクの予防・低減、罹災後の早期復旧に資するサービスの開発に取り組んでおり、その点で、Star Signal Solutionsさんの事業領域は親和性が高いと考えています。
③両社の出会い
―では、両社の出会いについてもお伺いさせていただいても宜しいでしょうか。
土屋様:実は岩城さんとは、JAXA出向時代の2020年度にJAXA内部で開催された新規ビジネスワークショップで出会ったのが最初でした。
岩城様:懐かしいですね!土屋さんとご一緒させていただいたとき、私は、JAXAからウィーンの日本政府代表部に出向していたタイミングでした。ワークショップの講義はフルリモートで、しかも時間帯もちょうどウィーンのお昼休みと重なっていたため運よく講習を受けることができました。
ちなみにウィーンでは、国連での宇宙のルール作りに政府代表団の立場で参加していました。宇宙ゴミの問題を含む宇宙活動の持続可能性の確保のためには、ルールの整備と同じくらい、誰もがルールを簡単に守れる仕組みづくりも大切だという想いから、今の事業に取り組み始めました。
―そういった繋がりがあったのですね。それから今現在の協業の検討に至るまでは、どのような流れがあったのでしょうか。
土屋様:私はJAXAから帰任後も岩城さんのアイディアは弊社事業との関連性も高く、協業出来たら良いなと漠然と考えておりました。しばらくして、未来X(mirai cross)があり、弊社から三井住友海上賞というのをお渡しさせていただいたことを機に、本格的に協業していきたいという気運が、更に高まっていきました。これまで細く長く繋がっていたものを、一気に一緒にやっていきましょう!となったのは、未来X(mirai cross)さんの三井住友海上賞が大きなきっかけだったと思います。
④今後の協業の方向性
―これからの2社の協業の方向性についても、お伺い出来ますか。
土屋様:まさに鋭意検討中ですが、大きく二つだと考えています。一つ目は双方の本業領域のソリューションを組み合わせてお客さまにお届けする事です。実はリスクマネジメントの基本において、保険は“リスク移転”といって最終手段です。本来、保険に加入する前に“リスクを視える化“する事、そのリスクに対して”低減・回避“などの措置を講じる事が重要です。Star Signal Solutionsさんのソリューションはまさに視える化、リスク低減・回避の機能です。Star Signal Solutionsさんのソリューションと弊社の宇宙保険を併せることで、これまで以上に宇宙産業に挑戦する事業者を支えることが出来ると考えています。
二つ目は宇宙ゴミや宇宙の交通安全を実現するための国際的なルール作りの主導です。最近になりようやく宇宙ゴミが課題だと認識されてきましたが、未だルールはありません。現在の我々の生活はあらゆる領域で宇宙産業のサービスを使っています。サステナブルな宇宙産業の発展の為にはこれ以上宇宙ゴミを発生させない仕組みが必要です。ひいてはその仕組みが人類のより良い未来に繋がると確信している為、2社で力を合わせると同時に、マクロの視点を持ち、様々なステークホルダーを巻き込んでいきたいと考えています。
岩城様:そうですね。日本だけではなく、これから世界でルールを作っていかないといけないところで、やはり産業界の声は絶対に大事だと思っていますし、事業として成り立つ環境をどう作っていくかが重要です。
宇宙の交通事故リスクにどう備えるべきかという観点で、短期から中長期的に亘る具体的な取り組みに関する多くの協業案が出てきており、非常にワクワクしています。
⑤未来X(mirai cross)について
―スタートアップ目線で事業会社と連携する魅力についてお伺いしたいと思います。
岩城様:今回ご連携した三井住友海上さんは、リスクを取る人達を応援している企業だと捉えています。新しいリスクを取っている人たちに対し、どのように仕組みを作り、いかに事業をサポートするかという、我々にはない知見を持っておられます。例えば宇宙領域では、日本の宇宙活動法ができるよりも以前から、日本初の宇宙保険引受けを行い、これまで約50年に亘り、宇宙におけるリスクを宇宙保険で引き受けてこられたノウハウと全世界の宇宙保険関係者とのネットワークをお持ちです。同社との連携により、今後、拡大が予想されている宇宙の交通事故リスクにどう対処すべきかという、グローバルな課題解決の分野で、日本国内はもとより、世界の宇宙ビジネスの健全な発展に貢献できるソリューションが、生み出せるのではないかと考えています。
―これから未来X(mirai cross)に参加される方に向けて、ぜひ皆様からメッセージをいただきたいと思います。
福原様:弊社は従来の保険引き受けに加え、リスクの可視化や予防・低減、罹災後の早期復旧に資するリスクソリューションを提供し「リスクソリューションのプラットフォーマー」となる事を目指しています。従来の損害保険会社という枠組みを拡げようと挑戦しており、スタートアップ企業様や、事業会社様との会話を通して得られる知見や気付きは貴重な財産です。是非、「こんなのはどう?」とお気軽にお声がけください。共により良い未来を作りましょう!
―スタートアップ側の目線からも、こういった場に出られることの意義などについてお伺いしたいと思います。
岩城様:未来X(mirai cross)は大手企業様との出会いの場としても非常にありがたいですし、スタートアップ同士の横の繋がりといった点でも、登壇者同士での交流などで、異なるフェーズにある企業同士が切磋琢磨し合える点も魅力だと思います。本番のピッチでは、他の会社のピッチも見ながら「あれは良いな」と思ったり、或いは、やはりコンテストでもあるので負けたら悔しいと感じたりなど、そういったことも含めて研鑽の場だと思っています。プログラムで特に印象に残っているのが個別メンタリングです。メンター陣も素晴らしい方々で、実際のメンタリングの際は、ピッチの内容だけではなく事業内容にもアドバイスをいただきました。具体的には、経営層を厚くしたいという課題があったのですが、それについても具体的な情報やアドバイスをいただくことができ、非常に参考になりました。全体として、とても充実したプログラムだなと感じています。
―皆様、様々なご意見・ご感想をありがとうございます。いただいたコメントを励みに、今後も未来X(mirai cross)としてより発展的なプログラムをご提供できるよう精進して参ります。本日は誠にありがとうございました!