2024年6月19日(水)に、未来X(mirai cross)での共創事例として、東急不動産株式会社様ならびに株式会社HashPort様へ事務局よりインタビューをおこないました。インタビューには、東急不動産ホールディングス株式会社様よりグループCX・イノベーション推進部の佐藤様と、東急不動産株式会社様よりホテルリゾート第二部の白倉様、株式会社HashPort様より代表取締役の吉田様にご参加いただきました。
―本日は貴重なお時間をいただき誠にありがとうございます!まずはHashPort様より自己紹介をお願いいたします。
吉田様:HashPortの吉田です。弊社は2018年に創業し、「まだ見ぬ価値を暮らしの中へ」をミッションに、一貫してブロックチェーン領域で事業を展開しています。私たちが目指しているのがWeb3技術の社会実装で、新しい技術が実験室の中に留まるだけではなく、広く社会のインフラになっていくお手伝いができたらと考えています。
弊社には、大きく2つの事業領域があります。1つは新しいトークンやブロックチェーンの仕組みをデザインしていくトークンアーキテクトの事業で、もう1つはWeb3ウォレットの事業です。
Web3ウォレットというのは、暗号資産トークンやNFT、SBTなどを個人で保管する際や、web3サービスに登録する際に利用するユーザーのアプリケーションと捉えていただければと思います。
弊社はこのWeb3ウォレットの開発を行っており、2025年の大阪・関西万博においても弊社のWeb3ウォレットを利用いただく予定です。私たちは、このWeb3ウォレットをインフラと捉えています。インフラは、ユースケースがないと暮らしの中に入っていけないのですが、トークンアーキテクト事業はそのユースケースを創出する役割と位置付けで取り組んでいます。東急不動産様とは、このトークンアーキテクト事業で共創しています。
―続いて、東急不動産様よりお二方ご参加いただいておりますが、自己紹介をお願いいたします。
白倉様:東急不動産の白倉です。私は、ホテルリゾート第二部に所属をしており、メインはスキー場やゴルフ場のマネジメントをしています。とてもアナログな業態で、このような施設は約40年前に開発され、一部のオペレーションはデジタル化されていますが、ほとんどビジネスモデルが変わらず、ガラパゴス化している業界です。
ビジネスモデルの変化はありませんが、例えば、スキー場の運営においては暖冬の影響でスキー場の営業期間が短くなっており、新しいキャッシュポイントをどう生み出していくかが重要となっています。スキー場の新しいデジタル関連の取り組みも検討している中で、NFTと親和性が高そうなコンテンツをニセコでつくれる可能性があったことから、HashPort様との共創を開始したというのが今回の経緯です。
佐藤様:東急不動産ホールディングスの佐藤です。私は、グループCX・イノベーション推進部でイノベーション戦略を担当しています。具体的には、スタートアップとの事業連携の促進とスタートアップへの投資、そして社内ベンチャー制度の事務局を担当しています。私は不動産会社2社を経て東急不動産に入社し、オフィスビル事業を担当した後に海外事業の部署へ異動しました。約5年間、ニューヨークに駐在していましたが、当時アメリカを中心にプロップテックが流行ってきたところでスタートアップやベンチャーキャピタルと繋がり、このような業務に興味を持ちました。帰国後に現在の部署に着任して、3年が経過しています。
―HashPort様、未来X(mirai cross)にご参加をされたきっかけをお教えいただけますか。
吉田様:当時、私たちが持っている課題意識は大きく2つありました。
1つは、当時ブロックチェーン領域に対する社会の認知がまだ進んでおらず、社会実装を目指すにあたり大手企業様とプロジェクトを行うための、信用が足りていないという課題です。デジタル空間だけのプロジェクトなら自社だけでもできますが、リアルな世界の中にWeb3やブロックチェーンを実装していくために、大手企業様と連携していきたいと考えていました。
もう1つが、どのような産業でブロックチェーンの活用機会があるかというニーズの把握が十分に出来ていなかったという課題です。暗中模索の状態でしたので、様々な産業を俯瞰して相性が良いところを見つけたいと考えていました。
そのような課題意識を三井住友銀行の元専務である志村様(現 HashPort社外取締役)へ相談させていただいたところ、本日のインタビュアーでもある成長事業開発部の木原さんへお繋ぎいただき、それがきっかけとなり、銀行取引・SMBCグループとの協業に繋がって参りました。未来X(mirai cross)の詳細は、SMBCの法人営業部の方から頂いた資料を拝見し、多方面でスタートアップが成長することができるプログラムがあるということを知りました。
今では、三井住友銀行様も東急不動産様も株主になっていただいており、未来X(mirai cross)をきっかけに両社様との協業が進み、株主になっていただくところまでご一緒出来たのは大変感慨深いです。
―続いて、東急不動産ホールディングス様、未来X(mirai cross)にご参加をされたきっかけをお教えいただけますか。
佐藤様:ちょうど私がアメリカから帰ってきたばかりで、手探りでソーシングルートの拡大を考えていた時に、各銀行もスタートアップとの協業をされているということがわかり、そのタイミングで三井住友銀行様から未来X(mirai cross)の紹介を受けました。期待していたことは、多様なルートから情報を集められるということと、新しい技術を探索できることです。当時は、Web3やNFTがどのようにリアルの世界とつながっていくのか、やってみないとわからない世界としてあったので関心を持っていました。まさにそのタイミングでHashPort様をご紹介いただきました。
―未来X(mirai cross)として事業会社様にスタートアップ様をご紹介するにあたり、スタートアップの皆様から申し込んでいただくパターンと、弊行が事業会社様に合いそうなスタートアップを紹介するパターンがあります。東急不動産ホールディングス様は事前にニーズを伺っていたため、HashPort様は協業に繋がるのではないかということでご紹介させていただきました。
―それでは、HashPort様より具体的なご連携に至られた経緯をお伺いできますでしょうか。
吉田様:当時は私たちの中で、不動産やリゾートと具体的にどのようなコラボレーションができそうかの具体的なイメージはまだ持っていませんでした。初めはアイディアベースでチケットやホテルの宿泊権をNFTで流動化できないかというようなコンセプトレベルの議論を社内でしていました。それらのコンセプトと、東急不動産様が把握されている顧客ニーズやブロックチェーンやNFTに関する具体的なアイデアが合わさり、議論を重ねる中でサービスリリースへ至っております。
時間をかけて顧客課題と提供価値をしっかりと両社で決めていったことが印象に残っています。
単純な“NFTを使うためのPoC”に留まらず、地域の隠れた価値を見いだせる試みとして大きな可能性があると感じておりました。
―東急不動産様からのご視点でもご連携に至った経緯をお伺いできますでしょうか。
佐藤様:私たちは比較的新しいものを見聞きすることが仕事になっていますので、当時からWeb3やNFTについてはある程度の理解はしていました。しかし、現場の方々がそのようなことに明るいかというとそうではないので、わかりやすく伝えようと意識していました。メーリングリストで情報を発信するなどで広く伝えていったのですが、そこに白倉が反応し、会話をしていく中で一緒に次年度に向けて走り始めることになりました。
白倉様:NFTについては、2021年度のタイミングで何かしら活用できるだろうなというイメージは持っていましたが、宿泊券などの色々なものに使えるだろうと思っていた一方で、実務的に既存のシステムとの繋ぎ込みのハードル、オペレーションのハードルというのが少し高いだろうという認識をしていました。
特に、弊社は施設の運営会社の方々がまさに現地でお客様と相対してサービスを提供するという運営業をしていますが、運営業はなかなか新しいことをガラッと導入するには凄くハードルが高いところもございます。システムを変えるということについて、使い勝手が変わるので使い慣れていないお客様への不具合が発生し、それがクレームになった時に対応をするのは現地になるので、非常に保守的にならざるを得ない状態です。
特に、ホテルだけで進めようとすると、システムの問題や他の施設への影響などがありハードルの高さがありました。その中で、唯一スキー場だけはチェックイン業務がないため、システム要件のハードルが低いという特徴がありました。
Web3はデジタルの最先端の取り組みではありますが、一部アナログオペレーションを入れることで、そこはクリアできるのではないかと考え、スキー場の本社の運営担当とNFTがどのように活用できるかを議論しました。その中で、佐藤からHashPort様を紹介してもらったので、運も良かったです。
―ニセコから始められた経緯や、その中でも、座組やプロダクトといった中身をどのようにして決めて行かれたのでしょうか。
白倉様:スキー場は多くの種類のリフト券があります。ニセコでは、近隣のスキー場と共通券の販売をしており、リフト券と絡めてしまうと他の事業者さんへも話をする必要があるため、極めてハードルが高いと感じました。
一方で、ニセコは世界中の注目度が高く話題性になると思っていたので、自社でできることは何かを考えました。スキー場は、自動改札ゲートを通ってリフトに乗りますが、営業開始より前の時間帯にゲートを通ってはいけないというルールがあるので、ゲートを通らないで導線構築ができるような仕組みとして、アーリーエントリーに行きつきました。
また、ニセコはパウダースノウのコースもあるので、そこのファーストトラックに関しては絶対に価値が高く、注目度も高いだろうと考え、話題性があり広告効果も狙えるということで、ニセコを選びました。
―大変面白いサービスだとお聞きするだけでもワクワクしました。具体化した時の感想・反響など、記憶に残っていることがあれば教えてください!
吉田様:当時は、ニセコに海外からの観光客が集まり、ラグジュアリー消費が大きく広がっていることがメディアにも取り上げられたタイミングで、世界が注目する場所でこういった実験が出来ることに、ワクワクしていました。本質的な価値に根差したNFTが流通するということが重要という関係者全員の思いが一致していたのを覚えています。スキー場の初すべりという既にニーズはあるが流通できない価値を新たな形で流通させるという東急不動産様のアイデアを通じて、NFTの価値を再認識しました。
また、何より良かったことは、長い時間軸で一緒に社会実装をしていくパートナーを得られたことです。東急不動産様との取り組みは一度きりで終わりではなく、NFTの保有者がコミュニティを形成するように、チケットのホルダーに向けた有名クリエイターによるNFTシーズンが終了した7月に記念ギフトとして配布しています。シーズン中もNFTの価値は上がっていましたが、実はギフトの配布タイミングもそれに匹敵するぐらい価値が上がりました。
大手企業のオープンイノベーションで、一度きりのPoCをやる場合が多いと思いますが、スタートアップと大手企業が会社としての結びつきも強めて、継続して何回もPDCAを回していくことが大切だと思います。未来X(mirai cross)を通じてこのようなパートナーを見つけることができたのは大きな収穫であると思っています。
―東急不動産様から見て、ご連携して良かった点や困難だった点を教えていただけますか。
白倉様:当時は、デジタル技術への知識が少なく、トレンドへのキャッチアップも遅れているという感覚がありました。
NFTに関してもどのようなものかの概要は理解していますが、実際に販売するとなった時のイメージがまったくついていませんでした。初年度は細かくNFTの売り方やPRの仕方などの提案を非常に数多くいただくことができたということが、HashPort様と組んで良かったと思える一番のところでした。
アート系のNFTと違い、リフト券やアーリーエントリーの券は期限がくると基本的に価値があまりなくなってしまうものであります。通常のNFTの売り方と違う部分もありましたが、やってみないとわからない!という想いもありました。
HashPort様には、私たちの要望も忌憚なくぶつけさせていただき、それを勘案いただいて、システムの一部改編もやっていただきました。HashPort様と何度も意見交換しながら議論を進められたという点も良かったと思います。
困難だった点は、事業部での予算の確保です。予算を明確に取っていたわけではなく、周囲へ理解いただくのに苦労しました。初年度は、北海道のデジタルチャレンジ推進事業の補助金を使わせていただきながら取り組ませていただきましたが、他にも色々な工夫をしてきたという認識をしています。
―補助金を探していたり、困難なことも多くあったのですね。初年度は白倉様お1人で進めていらしたのでしょうか。
白倉様:他の担当は既存業務もあるので、若手社員へお願いしたり、業務委託も一部お願いするなど、やり方を工夫しながら新しいことを考える時間をつくることを非常に意識していました。HashPort様との取り組みに割ける時間が得られたのは良かったです。
―HashPort様は、ご連携にあたって難しかったことや困難だったことは何かございますか。
吉田様:大きく2つあります。
一つは、この取り組みを単発で終わらないようにするために、社会実装も見据えた事業仮説を作ることです。
白川様もおっしゃっていたとおり、なぜブロックチェーンなのか、なぜNFTなのかの検討に時間を使いました。鶏が先か卵が先かの部分はあります。実際NFTとして運用していくと、利便性や課題も見えてきますので、今後に繋がっていくような設計を行い、実際にやってみるというのが非常に重要な点だと考えていました。将来的にどのような形にしていきたいのかはかなり議論を重ねたと思っています。
商業的にしっかり成長できることは大前提としてありつつ、地域の隠れた資源やアセットをNFTの形で流通させ、地域創生のモデルケースをつくることができたのは良かったと思っています。
もう一つは、プロジェクトが年単位でのプロジェクト計画を立てることです。スキー場というシーズン性が強いアセットを扱っていたので、準備ができたのですぐに始めましょうとはならず、シーズン到来と次のシーズンも含めて、計画を立ててしっかりやっていく必要性があるプロジェクトでした。
未来X(mirai cross)というプラットフォームもあったことで、長期で腰を据えてやっていきましょうという合意形成がなされたからこそ、このような継続的かつ長期的な取り組みができたのではないかと思っています。
―“地域創生に繋げていく”というお話もありましたが、東急不動産様から見て、今後のHashPort様との取り組みや今後のNFTやWeb3の活用について方向性を教えていただけますか。
白倉様:正直に申し上げると、すぐ地方にWeb3が広まっていくかというと非常に難しいと思っています。
各地域でアーリーアダプターの方がいらっしゃるところは、ふるさと納税でNFTをやったり、なにかの権利をNFT化したりと事例が2022年以降で爆発的に増えたと理解しているので、少しずつ広まっている印象はあります。ただ一方で、成功しているところがあるかというと、成功の基準を売れているかどうかとすると、その成功事例はかなり限られると思っています。
補助金を利用できるうちはイニシャルを出せるかもしれませんが、補助金がなくなったら終わりとなる可能性もあり、今後定着して広がっていくには、もっとゲームチェンジに繋がるような取り組みを私たちができたら良いと思っています。
1つ大きなキーになってくるのはWeb3ウォレットをつくるハードルがあり、このハードルをどのように下げるかというのは課題だと思っています。また、地方創生の話は必ず外国の方に買ってもらえるのかという問題がでてきますが、外国の方にWeb3ウォレットを使ってもらえるのかという、日本人とは別のハードルがあります。
ニセコは外国人が多く、スケールしきれなかったのはそのようなマインドに影響があると思っています。Web3ウォレットのログインを簡略化しただけで、外国人も含めて定着していくかというのは、もうひと山、ふた山あるのではないかと思っています。
―このようなゲームチェンジを東急不動産様が進めていくのは心強いと思っています。今のお話を踏まえ、HashPort様に今後の方向性を教えていただければと思います。
吉田様:まさに今、白倉様からあったお話でもありますが、東急不動産様とのニセコでの取り組みは、地方と企業とユーザーにとって三方良しの形になったと思います。今後より多様なユーザーのニーズにNFTを通じて対応し、今回のサービスをスケーラブルなものにしていけるように頑張っていきたいと思っています。今後の地域資産のNFTを通じた活用がさらに広がる前提として、インフラの整備が重要です。大阪・関西万博を契機にWeb3が新しい形で社会実装されるようイ取り組んでいきます。
大阪・関西万博で1,000万人の方にWeb3ウォレットを持っていただけると、日本のweb3ウォレット普及率は世界1位になります。今ちょっと不便だよねと思っていることがNFTで解決できそうでも、Web3ウォレットをセットアップするのが大変となっているという現在の状況も変わってくると思います。
様々なPMFに至るまでの取り組みを進め、Web3がたり前になること自体も推進していきたいです。
―日本が世界で1番Webウォレットを持つとなるとワクワクしてきますね!
最後に未来X(mirai cross)に参加を検討されている方へのアドバイスや、SMBCグループへのご意見がございましたらいただけますでしょうか。
佐藤様:SMBCグループの非常に広いネットワークからのソーシングは非常に魅力的です。ニーズを拾っていただいた上で、ここだという企業様を紹介していただいているのは非常に良いポイントだと思っています。一方で、金融機関なので難しい部分もあるかと思いますが、今後はイベントがもう少しカジュアルだと良いですね(笑)
吉田様:スタートアップの皆様へのメッセージとしては、事業への解像度が非常に上がる本当に良いプログラムだと思うので、是非参加していただきたいと思います!長くこのプロジェクトを活かすためのポイントとしては、目の前の案件が欲しいですというスタンスではなく、本当に企業様と伴走をし、何か大きなイノベーションを起こすという視点のほうが良い効果が得られやすいのではと思っています。社会実装は一朝一夕ではできないので、年単位でしっかり取り組んでいくということを大きなテーマとして持っていただきたいです。
大企業の皆様への想いとしては、東急不動産様との取り組みがしっかり形になった背景として、スタートアップへの包容力や、できるところからやってみるというトライファーストであるところが良かったのではと思います。スタートアップですので、至らぬ点はあったかと思いますが、すべて大企業の基準で判断するのではなく、スタートアップを包み込むという考え方でご対応いただきました。
もう1つは、机上の検討・議論を続けるのではなく、まずは世の中に送り出してみることがポイントだと思います。最近私たちはそれを「旗を立てる」と言っていますが、旗を立てると色々な切り口が出てくると思うので、まずは旗を立ててトライしていただけたらと思います。
SMBCグループ様へは、プログラムを知らないスタートアップや、自分とは遠いと思っているスタートアップがいると感じています。より多くのスタートアップが参加できるように周知いただければと思いますし、未来X(mirai cross)に参加をして社会問題の解決を一緒に取り組んでいるスタートアップ同士がコミュニティのようになっていくと良いと思いました!
―東急不動産およびHashPortの皆様、この度は貴重なお話をありがとうございました!今後のご活躍と事業のご発展を、事務局一同心より祈念しております。